―材料について―(計5回)
TOP1.ステンレス2.鋼(ハガネ)3.材料の強さ4.鉄線5.鉄線の用途

第1回:ステンレスに気をつけよう(00/07/10)

  さっそくですが、ここ何回かは材料についてお話ししたいと思います。

  さて、余り知られていないことの一つに、SUS430(磁石にくっ付くタイプ)の線材を普通にスポット溶接すると、スポットハズレの不良に悩まされると言うことがよく起こります。 錆に強いSUS304(18-8ステンレス)に比べると、2〜3割材料費が安いという理由でコストダウンの対象にされ、加工費は良くてそのまま、悪くするとさらに押さえられたりもします。

  皆さんこんな経験はありませんでしょうか?

実際に加工してみると、その時は十分良く付いているのにしばらく時間がたつと、ポツリポツリとハズレがでてくる。ウッカリすると納入先でクレームになって、選別だのロットアウトだのヒドイ目に合わされる。

  理由は、SUS430はSUS304と違って焼きが入り易いからなんです。
  鋼を赤くなるまで熱して急に冷やすと焼きが入って硬くなるのは皆さんご存知ですね。スポット溶接の後は自然冷却に任せるだけなんですが、材料にとってはかなり早い冷却になるのです。焼きが入ると硬くなると同時にもろくなります。そのうえステンレス材料は、溶接による収縮が大きく、つっぱった状態が残ります。(専門用語で残留応力と言います)これが原因であとでハズレが多発するというわけですね。
  コストダウンどころか大損を出してしまいますね。
  これを防ぐ方法はスポット溶接のときに焼鈍電流を流して急に冷えないようにするやり方があるおですが、詳しくは別の機会に譲りましょう。
  とりあえず、コストダウンの道づれにされて被害に遭わないよう十分注意しましょう。


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第2回:鋼(ハガネ)ってどんな材料?(00/08/07)

  一言でいえば「焼入れのできる鉄」のことです。

  ということは、焼入れできない鉄もあるということになります。100%純粋な鉄は本来焼きが入りません。これに近いグループの鉄を軟鋼と言います。また、溶かして型に流し込んで使われる鋳鉄もあります。

  これらに対し、いくらか炭素の含んだ(概ね0.3%以上)鉄のことを炭素鋼といい、炭素以外にもいろいろな元素を入れて性質を改良した合金鋼と合わせて、一般に鋼(ハガネ)と呼んでいます。

軟鋼に比べると鋼は種類が多く、かなり値段の高いものまであります。
  ハガネを赤くなるまで熱して(概ね800℃以上)、急に冷やすのを焼入れと言うのですが、なぜ性質が変わって硬くなるのかは話が難しくなるので今回は止め、実際の用途や例をあげてみましょう。
  ハガネの一番の用途は何と言っても刃物です。木や竹などを削るだけではなく、同じ仲間の鉄さえも削るのですから硬くなくては話になりません。次に大きな用途は、工具や金型です。他にもバネやネジ、機械部品で強さの必要なところに非常に多く使われています。
  たくさんの種類のハガネの中で代表は誰かということだけ、最後にお話しておきましょう。皆さんも時々耳にされると思いますが、S45Cという中炭素鋼です。安くて加工しやすく、しかもそこそこ丈夫なため、ハガネの材料を検討するときは、まずここからスタートすると言っても言いすぎではありません。

何となくおわかりになりましたでしょうか?


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第3回:材料の強さって何?(00/08/07)

  「おかきとするめ、どっちが強いか?」と聞かれたらどう答えれば良いでしょうか?どちらも歯に自信のない人にはキビシイ食べ物ですね。
  では、材料として「石こうとゴム、どちらが強いでしょうか?」これも簡単には答えられませんね。

  硬いのはどちらか、ちぎれにくいのはどちらかと聞かれれば答えることができますが、結果は逆になってしまいます。つまり強さや丈夫さには種類があるのです。力を加えても変形しにくいという意味の剛性とちぎれにくいという意味の引っ張り強さと二通りあるのです。

それでは、金属材料を例にとってみましょう。


  Q1:鋼(ハガネ)を焼き入れすると強さはどうなるでしょう?
  Q2:引っ張り強さは大きくなりますが、剛性は変わりません。

  Q1:鉄(軟鋼)とステンレスの強さを比べるとどうでしょう?
  Q2:引っ張り強さは一般にステンレスの方が大きいが、剛性はステンレスの方がやや小さい。


 この答 実感と少し違うようですね。実感は二通りの強さが状況によって混ざって使われるからです。

 最後に豆知識として一般的な法則を書いておきます。

  • 剛性(専門的にはヤング率という数値で表される)は材質によって変わり、熱処理によっては変化しない。

  • 引っ張り強さは熱処理によって大きくすることができ、その大きさや、変化の度合いは材質によって異なる。


  • 少々、難しかったかもしれませんが、大切な法則です。


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    第4回:鉄線って一口に言うけれど(00/10/25)

      材料指示で、ただ「鉄線」とだけ書かれていた場合、業者の間では普通は軟鋼の磨き鉄線のことになっています。

      まず先に予備知識として、加工硬化について少し説明しておきましょう。

      金属の多くは、曲げたりしごいたり潰したりの加工(塑性加工)を施すと硬く(=引っ張り強さが大きく→ちょっと一服第3回)なる性質があり、これを加工硬化と呼んでいます。同じ材料なのに焼き入れした訳でもないのに不思議にそうなるのです。軟らかい銅線などはたった一回手で曲げただけで二回目はハッキリ硬くなっているのが判ります。何度も曲げれば弱くなるのが普通と思われるでしょうが実際は逆になってしまうのです。
      もちろん、材質や加工内容や繰り返し回数によって程度は変わりますが、いくらでも硬くなるわけではなく上限はあります。
      そして、これを元に戻すには、焼きなまし(焼鈍とも言う)と言う処理を行います。真っ赤になるまで焼いてからゆっくり冷やしてやるとその材料の一番軟らかい状態に戻るのです。

       さて本題ですが、鉄線を見た目で大きく分けると、

      1:黒皮鉄線 2:磨き鉄線 3:メッキ鉄線 4:被覆鉄線になります。
    1. 黒皮鉄線は俗に鉄筋と呼ばれているもので、土木や建築のコンクリートの中に入れて補強するのによく使われています。製鋼所で真っ赤に焼けて出てきたのを冷やしただけですから、青黒いねずみ色の皮(正式には酸化膜とかスケールとか言います)で覆われていてそのように呼ばれます。予備知識に書いた焼きなましの状態ですから軟らかく曲げやすいのが特長です。


    2. 黒皮鉄線の黒皮を取り除いて(酸洗い)から、ダイスと呼ばれるラッパ状の穴をしごくように引き抜いて、きれいな肌と正確な断面(丸だけでなく四角やだ円など色々ある)に仕上げた線材です。元の太さから一気に細くするのは難しいので、何段階もダイスを通して(一連の装置の中で)必要なサイズにします。ダイスはすぐ磨耗しては困るので超硬合金という非常に硬い材料で作られ、線材をリールに巻きつけて引っ張りながら製造することから、この工程全体を伸線と呼んでいます。何度もしごかれるので加工硬化のため黒皮鉄線より硬くなっています。一般に細くなるほど硬く、軟らかさが必要なときは焼鈍してなまし鉄線にします。


    3. めっき鉄線は磨き鉄線にメッキして錆びにくくした線材で、一番よく使われるのは亜鉛メッキと銅メッキです。 亜鉛めっき線は、バケツや塗料缶の取っ手など色々なところに使われています。一つの品物になってからより線材のときに連続してメッキしてしまった方が安くつくのが最大の理由です。ただし、切り口にはメッキが付いていないのでそれでもいい場合に限ります。物を縛るときに使う針金というのもこの仲間ですが中身は軟らかいなまし鉄線です。銅めっき線はアーク溶接(正確には炭酸ガスまたはCO2アーク溶接)のときに、リールから自動で送り出される溶接材に最もよく使われ、通称タンパン線とも呼ばれています。


    4. 被覆鉄線もメッキ鉄線と同じ理由で同じように連続して被覆を被せていきますが、多いのはビニール系の被覆です。衣類をクリーニングに出したときに付いてくるハンガーや、物干しに使うタコの足などがそれです。織り網で作られているフェンスもこの線材が使われています。

    次回は材質で分けてみる予定です。


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    第5回:鉄線の用途(00/11/20)

      あれっ、今回は材質の予定じゃなかった?そうでした。材質の話しはどうしても小難しくなるので、用途から入ったほうが分かりよいと思ってこんなタイトルになりました。

      まず、私の独断で鉄線の用途を(1)ねじ(2)ばね(3)その他の三つにあっさりと分けてしまいます。

      さて、(1)の「ねじ」ですが、一番多く使われているのが軟鋼の磨き鉄線です。次に多いのがクロモリ鋼、ステンレスとつづき、残りはわずかしかありません。
      さて、軟鋼の磨き鉄線は記号で「SWM-B」または「SWRM-B」と書きます。Steel Wirerod Mild Barの略で値段が安く外観もきれいで加工しやすいのが特長です。φ10以上の太物は、角材や厚板と同じようにSS400(以前はSS41)と書かれる場合もあります。
      さて、クロモリ鋼は「SCM435」と表される材料が一番多く、スチール クロム モリブデン の頭文字に類別番号を付けた記号です。キャップボルト(頭に六角穴のある黒いボルト)によく使われ、機械や金型などの強度がいる場所や、頭を沈めたいときに使われます。この材料は加工後に丁度いい硬さに熱処理をして使い、非常に丈夫で引張り強さは軟鋼の2倍以上あります。
      さて、ところで、このキャップボルトを締めるときに使う六角棒レンチも考えてみれば線材の一種ですが、これはどんな材料で出来ているのでしょうか?ボルトよりもっと丈夫にしておかないとすぐに傷んでしまいますね。答は、安いレンチはボルトと同じクロモリ鋼、上等のものはもっと丈夫なクロムヴァナジウムという材料で出来ています。
    スパナなど工具の胴の部分によく「CHROME  VANADIUM」と書いてあるのは銘柄ではなく材質のことなんです。

    少し話が脱線しますが今しばらくお付き合いください。

      実は第3回でお話しした材料の強さにもう一つ大切なことを追加しなくてはいけないのです。

    同じ引っ張り強さで同じ剛性なら強さも同じでしょうか? 硬いけど折れやすいのと硬くはないが折れにくいのとどっちが強いでしょうか?
      またまたややこしくなってきました。
      実は強さの種類には引っ張り強さ剛性の他にもう一つ、折れにくさというのが有るのです。
      引っ張り強さを超える力が加わったときに、折れる場合と曲がる場合と二通りあって、折れにくい性質を靭性じんせい(強靭の靭)、折れやすい性質を脆性=ぜいせい(脆弱の脆)と言います。
      たいていの場合折れては困るので、硬さ(引っ張り強さ)を多少犠牲にしても折れにくい方(粘り強さ)を選びます。先ほど丁度いい硬さと書いたのはこのことなんです。
      包丁でも刀でも名品と言われるものは、切れ味に必要な硬さと、刃こぼれしにくい粘り強さの両方をかね備えているものを言い、技術の進んだ現代でも出来不出来は完全には無くせていません。

       次に、(2)の「ばね」ですが、当然ながら軟鋼は全く使われません。 おおざっぱに言うと、精度や安全性にうるさくないところには値段が安い0.4〜0.8%の炭素を含んだ硬鋼線が、うるさい場合にはさらに他の元素を入れて品質を改良したピアノ線が使われます。ピアノ線はさらに要求品質や使用条件に応じて、A、B、V種とランクが上がっていき、V種はエンジンのバルブスプリングのように最も厳しい条件で使われる材料です。もちろん全て熱処理(ばねの世界ではテンパーと呼ばれる)して使います。

      最後に(3)の「その他」ですが、建築用の鉄筋を除くとあとの殆どが軟鋼の磨き鉄線か、それにメッキや被覆をかぶせたものと考えて間違いなく、他の材質はあってもごくわずかです。

      今回のシリーズでは鉄線に的を絞ったため触れませんでしたが、ワイヤーというと、鉄線に近い仲間のステンレス線、よりあわせた鋼索(ロープやケーブル)、電気配線に使う電線(コードやケーブル)などの意味も含み、材質も鉄やステンレス、銅やアルミニウムの他、最近はチタンや形状記憶合金などいろいろ増えてきて、分類も一筋縄ではいかず、追求されると頭の痛いところです。

      さて、今回で材料の話はいったん終わりにします。 感想やご意見などありましたらメールや掲示板などに遠慮なくお寄せください。 次回は少し軟らかい話をして、その次から新しいシリーズに入る予定です。 何を書こうか今考え中???????


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